

1、きっかけ
7年前、麦屋を引き継いで間もない頃、当時はインターネットでの販売は行っておりませんでしたから、ほとんどのお客様がお電話からFAXでご注文を頂いておりました。 私どもは麦屋のうどんはもとより、つゆにも絶対の自信をもっておりましたが、ある大阪のお客様から、「麦屋さんのつゆはまずくなった。前やっていたつゆ(ストレートつゆ)は美味しかったのに残念です。」と言ったお電話を受けました。 麦屋では、私が引き継ぐ少し前に先代の意向で非常に好評であった釜揚げうどん、ざるうどん用のストレーツつゆをやめてしまって、お客様の方で水やお湯で割っていただく「濃縮つゆ」だけの販売になっていました。 なぜそんなに人気であったつゆを販売しなくなったのかと申しますと、ストレーツつゆは味の安定が難しい、冷蔵での日持ちが短い、そして何よりつゆをつめる為の機械が頻繁にトラブルを起こすという内部的な事情によりだったのです。 私ども引き継いだ当初はその事情は聞いておりましたが、短期間で解決出来る問題でもなく、又、濃縮つゆもお叱りを受けた後麦屋で味見をしてみても、スタッフ全員が「おいしい」と言う感想だった為、まずくなったとおっしゃられたお客様には代品をお送りしてお詫びをしました。 しかし、後日この「濃縮つゆ」の性質があきらかになりました。
原因は「水」です。
何とした事か、私ども「麦屋」は「うどんは水が命」とうたっておきながら、一番水の影響を受ける「つゆ」を私どもが探し求めた「水」ではなく、お客様にゆだねてしまっていたのです。 細かく申しますと、麦屋で食べる「濃縮つゆ」のうどんは、「世に二つとない」味です。

これが、 私毛利が住む家の水道水で作った「濃縮つゆ」ですと、そこまでの感動を得る物ではなくなります。
さらに、その年高知市内で野外イベントがあり、麦屋も参加させていただいてうどんの販売をしましたが、その水道水との相性が良くなく、3日間のイベントの最中麦屋に水をポリタンクに汲みに帰ったり(往復7時間ほど)、イベント会場近くで良いわき水が出る場所を教えていただいて汲みにいったりと、つゆに関して非常に苦労をしました。せっかく麦屋のうどんだと楽しみにしていただいている方の期待を裏切る事は出来なかったからです。
その経験から、まずはストレートつゆの復活を目指したのです。
2、復活、そして新たな問題が・・・
ストレートつゆは翌年の夏には復活する事が出来ました。 絶対に麦屋でしか表現する事の出来ない味ですので、以前ご贔屓にしていただいていたお客様や、地元の方からも大変喜んでいただいたのです。

が、新たな問題が・・・
麦屋のうどんは、ご家庭で極力手間をかけずに食べていただけるよう、そしてせっかく麦屋が思う最高の水で練り上げたうどんなのですから、その最高の水で仕上げ(正しくは仕上げ近く)まで行いたい、と言う思いで冷凍でお届けしております。
ですから調理法と致しましては、巷で販売されている「生麺(うどん生地を切ったままのめん)」や「半生麺(日持ちのするようにこしらえた水分を抜いた麺)」「乾燥麺(そうめんやパスタのような完全に乾燥した麺」に比べると格段に簡単なはずなのですが、「コシがない」「切れる」と言ったお声を聞きました。
調理方法通りにしていただければ絶対に美味しく仕上がるのですが、そのうどんの袋に書いてある「調理方法」をあまり見ないで感覚で調理される方が多いようでした。 せっかく麦屋が自信をもって送り出したうどんでも、お客様の口に届く時に完全な又はそれに近い状態でなければ、私どもとお客様との間に味に関しての「温度差」が生じていても仕方がありません。
では、どうしたら良いものか・・・
3、構想
2005年夏、30代前後の女性に人気を誇ってる、現在のお取寄せブームの先駆け的存在「おとりよせネット」代表の粟飯原さんが高知で講演をされました。
その中で言われていた事に「エッジを立てる」と言う言葉があり、それは僕なりの解釈で「自分(麦屋)岳にしか出来ない事をやる」「出る杭になる」と言う事でした。
当時私毛利の中には「南部鉄器ブーム」が到来していて、真夏なのに鉄瓶を購入し、お湯を沸かしてはお茶を飲み、眺めては写真を撮り、風流などと悦に入っていた時期でもありましたので、「南部鉄器」と「麦屋のうどん」でなにか出来ないものか・・・と考えてもいたのです。
簡単な方法としては、南部鉄器と麦屋のうどんをセットで販売する。と言うのがありますが、そんな事はうどん屋さんでなくても他のお店がやっています。又、「麦屋にしか出来ない事」にも反します。
麦屋のある四万十から高知市内まで車で片道3時間、往復6時間と言うのは、僕にとってものすごいヒントをくれた貴重な時間になりました。
道中で色々と張り巡らされていたアイデアや問題点が、砂場に落とした磁石に引っ付く砂鉄のように、雑念だけを残して一カ所に集約しました。
その時の事を順を追って説明は出来ません。
順を追って説明出来るほど、論理的に導かれたアイデアではないからです。
後付けの説明ならなんとでも言えますが、
この「鍋焼きうどんごと凍らして販売する」
と言う発想、特に南部鉄器でやると言う発想には、論理的に考えていたのではたどり着かなかったでしょう。

4、試作
今、麦屋が出来うる最高の物をお届けすると言う使命のもとスタートした「鍋焼きうどんごと凍らして販売する」構想ですが、まずは、南部鉄器がうどんを凍らす-48度に耐えられるのか、そしてそこから炎で加熱して割れたり変形したりしないのかが問題でした。

とりあえず、私が贔屓にしていた南部鉄器メーカーに連絡をして、鉄鍋を送っていただき、素うどんで試作をします。
何度かやりましたが流石です。鉄鍋はびくともしません。
南部鉄鍋で行ける。
あとは具材と味を決める事・・・
具材選びに関しては、なるべく麦屋のある四万十近くの物でやろうと探しまわり、幾度となく試作を繰り返しました。
普通の調理の試作と違い、いったん調理した物を「冷まし」「凍らし」「再加熱する」と言う行程は、思った以上に時間がかかり、お客様の食べる状況も考慮して、試作した物を1週間後に食べてみたり、一度宅急便で配達した物を食べてみたりと、試行錯誤を繰り返しました。
そして一番のネックは、一度調理した物を冷凍して再加熱するので、味が濃くなってしまう点です。
少し薄口に味付けをしてみたり、野菜や茸の入れるタイミングを変えてみたりと、お客様が召し上がるときの状態を考えながらの繰り返しです。
構想を持ち上げた時には、「そんなの売れんちや」「やったって無駄」と非協力的だったスタッフも、徐々に形になっていく姿に楽しくなったのか、途中からは積極的にアイデアを出してくれるようになりました。
そのおかげで、随分と良くなりもしました。(試作をするたびに最高の食材で作られた鍋焼きうどんを食べる事が出来るので喜んでいた、と言う側面もあるかもしれませんが・・・)何はともあれ、麦屋全員のアイデアと技術力、独創力でだんだんと形になっていきました。
5、完成、そして・・・
販売する為には名前がなくちゃ、と言う事でそちらの方にも考えをとられていましたが、結局「鉄麺」に落ち着きました。食べる物に「鉄」を使うのはどうか、と言う考えもありましたが、鉄鍋の麺と言う事と、単純な響きの名前と言う考えから、「鉄麺」と名付けました。
価格はうどんとしては破格の1人前1万円になってしまいました。
あまり価格の事を考えずに、良い物を、良い物を、と言う思いで作っていましたらどうしても1万円と言う価格を付けないとやってかれなくなりました。
まあこれも、お客様に恵まれている麦屋だから出来る事でしょう。こんなに温かいお客様に支えられていなかったら、1万円もするうどんを世に出す事すら出来ないし、出したとしてもそっぽを向かれてしまうに違いありません。
この「鉄麺」は、おかげさまで大変多くのお客様に私どもの思いをご理解頂き、当初考えていたよりも多くのご注文を頂いております。
「こんなうどん見た事もない!」と言った意表を付いた贈り物としても喜ばれているようです。
又、テレビや雑誌、本にも取り上げられ、それを見て麦屋の事を知っていただいた方も本当に多くいらっしゃいます。ありがたいことです。
今後とも、多くの方に感動を与えられる存在であり続けられるよう、日々精進して参ります。
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